COLUMN
コラム
「ひきこもりの息子が村山さんになら会ってもいいと言っています。」
ご両親からこんなお話を頂いた。なんでもインターネットで僕のことを調べ、『この人なら嫌なこと言わなそうだ。』と思ってくれたらしい。会ってもいいと言われれば会いに行くのが筋ってもんだ。インターホンを鳴らすとミニチュアダックスを抱えた優しそうな青年が出迎えてくれた。家族以外の人と言葉を交わすのは8年振りだと言う。軽い挨拶のあとリビングで彼と向かい合った。
「よく頑張ったねー。10年もひきこもり生活だったんでしょー。」彼は小さく頷いた。8年振りの他者への反応。頷いてくれるだけで充分だ。それから、犬の話。ゲームの話。ユーチューブの話をした。彼とは好きな芸人が一緒っていう共通点ができた。
翌週も彼に会いに行った。「8年振りの他人ってどんな感じ?」「未知との遭遇です。」小さな声で彼はそう言った。そりゃそうだ。8年もの間、人と話さずにいれば誰だってそうなる。世の中変わっているかも知れないし、会ってみなけりゃほんとのところは僕がどんな人間かだって分からない。彼のひきこもり生活は10年。そんな彼を僕は単純に『ひきこもり生活を頑張った人』として凄いなーと思う。
今、彼とは毎週顔を合わせている。僕が家へ行くこともあれば、彼が事務所へ来ることもある。10年間を取り戻すのは簡単なことじゃない。外に対する彼の恐怖心が完全になくなったわけではないし、思わぬところでまた傷ついてしまうかも知れない。それでも彼は大きな一歩を踏み出した。
未知との遭遇―。彼に言われてハッとした。そりゃ怖いよね。だって宇宙人みたいってことでしょ。目の前に宇宙人が現れたら、僕は軽くヒクと思う…。いや、逃げるか。少なくとも握手はしない。どうやったら“未知なる存在”にならないようにできるかなー。このところ毎日そんなことを考えている。